
本日は、斜向かいの大規模型の保育園である府中愛児園にて、
今年度より歯科嘱託医を拝命していることもあり、
職員の方へ園内研修としてお話させていただく機会をいただきました。
多くの方の前で話す機会は決して多くなく、初めての地地域対外的活動と言えるかと思います。
どのような内容にするか、大変悩みました。
歯科の一般知識だけでは面白みに欠けます。
保育者として職員の方が接することと、自身の臨床との接点を考えてみると、
「小児の口腔外傷」というテーマが浮かんできます。
統計では、小児期の外傷は1〜4歳児に多いとされ、主な要因は転倒および衝突です。
この1〜4歳はまさに現場の先生方(保育士の先生)が接している子どもたちであり、
小児の口腔外傷への理解を深めてもらえればと考えました。
どのような外傷が起こりうるのか?
対処法はどうなのか?お話をさせていただきました。
職員の方も多く、二部構成となっており、同じ内容を2回話すことになりました。
同じ調子で2部お話をするのは慣れが必要ですね。今後の課題です。
園長先生も聞いてくださり、
また講演後、個別に質問をいただくこともあり、うれしく思いました。
今後、地域への対外活動を積極的に行っていきたいと思います。
追記)
小児の口腔外傷をまとめている中、
ある過去の事件が思い起こされました。
1999年に起きた”杏林大学割り箸死事件”です。
事件と言われますが、予見できない要因から亡くなられたとされ、
医師の過失は否定され、2008年に医師の無罪判決が確定しています。
口腔内外傷に携わる者として、この事案に触れ、多くの考えさせられることがあります。
この事件では当時4歳9ヶ月の児が縁日の綿菓子を食べた後、それを咥えたまま走り回り、転倒。
割り箸が喉に刺さり、自ら引き抜いて投げ捨てたとされています。
(投げ捨てた割り箸片は最後まで見つからなかった・・・)
割り箸の破折片が体内に残留していることは予見不可避とされました。
しかし、司法解剖で初めて、先端 3.5cm が小脳に刺さっている状態の全長 7.6cm の 割り箸片が発見されました。
この事案が起きてから25年が経っています。
今の歯科医師としての僕の感覚は、刺傷では刺さったものが「欠けていないか」必ず確認をします。
そのような常識的な感覚があります。
さらに刺傷の診察依頼であれば、必ず刺さったものも持参してもらい直接目で見て確認をします。
しかし、この感覚はこの事案があってこその教訓なのかという思いに至りました。
僕の臨床の現場でも刺傷の方が来院されることも経験があり、大学勤務時代も早朝の当直時に上顎に菜箸が刺さってしまった成人の方を診察したことがありました。(その方は即時に耳鼻咽喉科に診察依頼しました)
しかし、現在の縁日でも串を用いた食べ物は供与されておりますし、
コンビニエンスストアでのファーストフードにも串を用いたものは普通に見られます。
また、さらに日常的には歯ブラシをしながら歩くことも大変危険な行為です。
小児に限らず、このような偶発症を考慮して、何か対策する必要があるように思えてなりません。
また、この事件は医師の診療上の不作為に対する刑事責任の有無が問われた初の事例とされており、
これ以降、医療者側が刑事告訴等に構える姿勢となり、小児科医・外科医の成り手不足・救急医療の縮小などの医療崩壊を生むきっかけとなったと言われています。
医療は決して100%のものではなく、医療者に全ての責任を負わせるのは間違いと思いますが、
本当に過失はなかったのか?事件後の今の自分では、上から目線の考えしかできないような気がします。
当時の救急搬送では二つの病院で既に受け入れを断られていました、
そんな中、杏林大学は救急車受け入れを行いました。
(搬送時は夕方の当直帯の時間帯)
問題は難しいです。
僕が疑念に思うことは、
「医療者側の誠意はあったのか?? 」
この辺りのことは文献を調べてもわかりません。
「医療は医療者と患者さんとの信頼関係で成り立つもの」
これが今の僕の考えです。
この事案について、今後も考えていきたいと思います。
話が脱線しましたが、偶然にも今回の園内研修ではこのようなことを考える機会をいただきました。
参考文献)
企業法学研究 2012 第 1 巻第 1 号 Business Law Review 2012, Vol.1, No.1, 50-66 穿通性頭部外傷により死亡した患者を診察した医師について、診療上の過失を否定した事例 根本 晋一
https://www.jabl.org/kigyouhougakukenkyuu2012(nemoto).pdf